My Story
鈴木伸重の自分史
- のぶの歩いてきた歴史 -
Story #01愛されて生まれてきた
人情味あふれる活気と、古き良き昭和の面影を色濃く残す街。東京の下町、墨田区。1982年5月30日、この街でひとつの命が産声を上げた。男ばかり三人兄弟の末っ子。
その子が、のちの「のぶ」である。
父は45歳、母は43歳。
当時としては珍しい高齢出産だった。父は祖父母の代から続く会社を継ぎ、親族とともに経営を担っていた。家業を支えながら、家庭では祖父母や父を支える毎日を送っていた母は、朝から晩まで働き、家族を守ることに全力を注いでいた。そんな母には、長年心の奥に抱き続けていた願いがあった。
「今度こそ、女の子を抱いてみたい。」
実は、それまでにも何度か新しい命を授かっていた。けれど、その小さな命は、この世界を見ることなく空へ還っていった。悲しみを何度も経験し、「これが最後かもしれない」と祈るような思いで授かった命。
その子は、望んでいた娘ではなかった。それでも両親は、心から喜んだ。待ち続けた命。守り抜きたかった命。
その喜びは、男の子か女の子かということを、はるかに超えていた。のぶは、たくさんの愛情の中に迎えられ、この世に生まれてきた。
彼の人生は、このあと何度も「自分には価値がない」と思い込む出来事に出会う。けれど、その事実だけは決して変わらない。誰よりも待ち望まれ、
誰よりも愛されて生まれてきた命だった。そして、それは彼が長い人生をかけて、もう一度思い出していくことになる、大切な原点でもあった。
Story #02無邪気な幼少期
のぶには、ふたりの兄がいる。一番上の兄とは18歳、二番目の兄とも15歳離れていた。
物心がついた頃には、兄たちはすでに大学生や社会人だった。家で一緒に遊んだ記憶も、兄弟げんかをした記憶もほとんどない。気づけば、家の中では一人っ子のように育っていた。
年の離れた兄たちは、親のようでもあり、少し遠い存在でもあった。その分、のぶは大人たちに囲まれながら、のびのびと毎日を過ごしていた。
幼い頃の彼を一言で表すなら、「無邪気」。
まん丸に刈り上げた坊主頭がトレードマークで、近所では「まるこめ君」と呼ばれていた。
本人はそんなあだ名さえ気にしない。外へ飛び出しては、路地裏を走り回り、虫を追いかけ、気になるものがあれば何でも触ってみる。
見るものすべてが新しく、毎日が冒険だった。好奇心のままに動き、夢中になれば時間も忘れる。
誰かに評価されるためではない。
褒められるためでもない。
ただ、「面白そうだからやってみる」。
そんな子どもだった。
今振り返ると、その姿は、その後の人生で何度も顔を出す「本来の自分」そのものだったように思う。
新しいことが好き。作ることが好き。
人と笑い合うことが好き。
面白いと思ったことには、まっすぐ飛び込んでいく。
この頃の彼は、まだ「普通」という言葉を知らない。
人と違うことを恥ずかしいとも思っていない。ありのまま笑い、ありのまま遊び、ありのまま毎日を楽しんでいた。もちろん、幼いながらに寂しさを感じることもあった。兄たちは忙しく、両親も仕事に追われている。それでも、その寂しさ以上に、世界は好奇心で満ちていた。
何にでも興味を持ち、自分の手で確かめたくなる。その無邪気さは、父から受け継いだものだったのかもしれない。父もまた、目が見えなくなってからも、新しいことへの挑戦をやめない人だった。
「できない」ではなく、「どうすればできるか」。
そんな背中を見ながら育ったからこそ、のぶにとって挑戦することは、ごく自然なことだった。けれど、この無邪気さは、これから少しずつ心の奥へしまい込まれていく。人と違うことを恐れ、目立つことを避け、「普通」でいようとする小さな鎧を、少しずつ身につけていくことになる。
まだ、そのことを幼い彼は知らない。ただ目の前の世界を楽しみながら、今日も笑顔で下町の路地を駆け回っていた。

